みなし残業制の上限時間 | 違法な悪用が続く制度のメリットデメリット
本記事では、ブラック企業を中心に多くの企業が採用(悪用)しているみなし残業(固定残業)制度について、メリットデメリットや違法性、上限時間の有無などについて解説します。
みなし残業は正しく運用がされれば、企業にとっても従業員にとってもメリットが得られる制度ですが、現状では悪質な運用、ずさんな管理をしている企業がかなり多く、社会問題にもなっています。
最近、企業の求人を見ていると「みなし残業制」を採用している企業を多く見かけるようになっていますので、みなし残業の制度について正しい知識を身に着け、みなし残業の会社で働いている方については自社の運用が違法でないか、これからみなし残業の会社で働くことを検討している方については本当にその会社に入っていいのか、についてよく考えていただければと思います。
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みなし残業制の上限時間 | 違法な悪用が続く制度のメリットデメリット
- みなし残業制の上限時間 | 違法な悪用が続く制度のメリットデメリット
- みなし残業制(固定残業制)とは?
- みなし残業時間を超えた分は別途支給する
- みなし残業制を採用する企業のメリットデメリット
- 従業員側のメリットデメリット
- みなし残業制を導入するための条件
- みなし残業時間の上限時間
- みなし残業導入の背景と企業の悪用
- みなし残業が違法になるケース
- みなし残業を採用する企業への転職
- まとめ(みなし残業制の上限時間と違法な悪用)
みなし残業制(固定残業制)とは?
みなし残業制とは、給料や手当の中に、あらかじめ一定の時間分の残業代を含めて支給される制度で、固定残業制などともいわれています。
例えば、毎月30万円の給料を固定で受け取り、その中に20時間分の残業代として4万円(みなし残業代)が常に含まれているような場合です。
みなし残業時間を超えた分は別途支給する
みなし残業制を導入する企業は、あらかじめみなし残業時間を何時間にするか決める必要があります。例えば、みなし残業時間を20時間と定めた場合には、従業員が残業をしてもしなくても20時間分の残業代については固定で支払う必要があります。
また、従業員が20時間を超える残業をした月には、20時間を超える部分の残業時間に対する残業代は別途支給しなければなりません。
みなし残業制を採用する企業のメリットデメリット
みなし残業制を導入する企業のメリットデメリットをまとめると以下の通りです。
<メリット>
・残業時間がみなし残業の時間内に収まっていれば、残業代の計算をする必要がない
・一定時間までは残業をしてもしなくても給料が同じなので、従業員が短時間で仕事を終わらせようとする結果、生産性が上がる
<デメリット>
・従業員が残業をしなかった場合であっても、みなし残業時間分の残業代は支払わなければいけない
・従業員がみなし残業時間を上回る残業をした場合は、残業代を別途支払わなければいけない
従業員側のメリットデメリット
<メリット>
・残業をしてもしなくても決められた時間分の残業代を受け取ることができる
・みなし残業時間より短時間で成果を挙げられる社員にとっては効率が良い
みなし残業制は従業員にとってはこのようなメリットがありますが、日本では諸外国のように一人一人の業務範囲が不明確です。そのため、自分一人が効率を上げて業務を短時間で終えたとしても、その分いろいろな仕事が舞い込んできて、結局は残業時間が増えてしまうケースが多いものです。それを鑑みるとみなし残業制で本当にメリットを得られる従業員はごく限られることになりそうです。
<デメリット>
みなじ残業制を正しく運用しない企業が多く、みなし残業時間を超えた残業時間に係る残業代が支給されなかったり、残業が恒常化している職場で健康問題が出るリスクもあります。
みなし残業制を導入するための条件
みなし残業は、採用しようと思った企業が自由に採用できる制度ではなく、導入に当たっては下記の条件を満たす必要があります。
1.従業員への周知
みなし残業代制を採用しようとする企業は、みなし残業制を採用して残業代を支払う旨を従業員に周知させる必要があります。ここでいう周知は口頭などで説明するだけではなく、書面(一般的には就業規則や賃金規定)を用いて周知させなければいけません。
また、みなし残業について定めた書類については、社員がいつでも見れる状況にしておく必要があります。
2.みなし残業制の”金額”と”時間”を明確に定めること
みなし残業制を企業が導入するためのもう一つの条件は、採用しようとするみなし残業制度について、その”金額”と”時間”を明確に定めることです。具体的には、給料のうち「〇時間の残業代として〇円のみなし残業代を支払う」と定めておく必要があります。
<例>
〇 月給30万円(20時間分のみなし残業代4万円を含む)
✖ 月給30万円(みなし残業代を含む)
※月給のうち残業代がいくらかわからないのはNG。
みなし残業時間の上限時間
みなし残業については特別に上限時間は定められていませんので、通常の労働の場合の残業時間の上限と同じになります。
残業時間の上限は労働基準法で定められており、月に45時間、年間で360時間までとされていますが、臨時的な特別の事情があって労使で合意を結んだ場合は上限を引き上げることができることとされています。
<原則的な残業時間の上限>
・月45時間以内
・年360時間以内
<例外規定>
臨時的な特別の事情があって労使で合意している場合は、上限を引き当てることができます。
・月100時間未満
・年720時間以内
・複数月平均80時間以内
・原則である月45時間を超えることができるのは年6回まで
みなし残業導入の背景と企業の悪用
みなし残業制導入の背景には、労働時間に応じて賃金を支払う、という考え方から、徐々に成果に対して賃金を支払うという流れに変わってきた社会的な事情があります。
しかし、みなし残業制を悪用しようとする企業では、みなし残業を導入することで見せかけの給与水準を高くして、少しでも優秀な人材を獲得しようとするのが目的なケースもあります。本当に優秀な人材はこのような求人広告には騙されませんが、もし気づかずに入社してしまった場合には、思ったより残業代が少なく、想定した年収が得られないということになってしまいます。
また、みなし残業制を採用する企業の中には不適切な運用をしている会社が多いのも問題です。本来はみなし残業時間を超える部分の残業は支給しなければいけないのですが、みなし残業時間を超える部分の残業時間が集計されずサービス残業となってしまっているケースも後を絶ちません。
みなし残業が違法になるケース
みなし残業は多くの企業で不適切な運用がされていますが、違法労働として摘発することができるのはどのようなケースでしょうか。
1.みなし残業代を含めた給料が最低賃金を下回る場合
みなし残業を長時間に設定しているにもかかわらず、月給が少ない会社の場合には、みなし残業代を含めた給料が最低賃金を下回っているケースがあり、これは違法になります。
労働基準法では1か月の労働日数は23日、一日の労働時間は8時間として最低賃金を計算します。例えば、最低賃金を900円とした場合の、みなし残業制の最低賃金は以下のように計算されます。
・基本給 900×8時間×23日=165,600
・みなし残業代 900×1.25×20時間=22,500
・合計 188,100円
→ 月給がこの金額を下回ると違法!
2.サービス残業が発生している場合
前述の通り、みなし残業を採用している場合であっても、あらかじめ定めたみなし残業時間を超える部分の残業時間については別途残業代を支給する必要があります。この超える部分の残業時間が集計されず、残業代が支払われていない場合は違法労働になります。
みなし残業を採用する企業への転職
最近、転職の求人をみているとみなし残業を採用している企業が多くなってきているように思います。みなし残業の求人を見ると、「裁量を持って働ける」「時間の制約がない」といったメリットが強調されていますが、実際には残業が常態化した厳しい労働環境の職場が多いです。
もし、自分が企業の経営者だったとして、残業があまり発生しない職場であればみなし残業制を導入するでしょうか?企業側にとってのみなし残業制は、残業が常時発生する職場でなければまるでメリットがない制度です。みなし残業制が採用された企業に転職をする場合は、みなし残業で定められた時間か、それ以上の残業時間が常にあると考え、それを許容できる場合のみ、その企業の選考を受けるようにした方が良いでしょう。
まとめ(みなし残業制の上限時間と違法な悪用)
みなし残業は、日本の産業の生産性向上を背景に多くの企業で導入されていますが、不適切な運用や悪用をする企業が後を絶たないのが現状です。本来であれば、みなし残業制を悪用する企業への罰則強化と確実な取り締まりにより、企業に法律を守らせるべきなのですが、日本は労働問題については無法地帯と言ってもいいほどの荒れ地となっています。
不当な長時間労働やハラスメントは働く人の命にもかかわる問題ですので、くれぐれも正しい知識を身につけて、おかしいことにはおかしいと言える会社員になりましょう。